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Issue 024  西野麻衣子
あなたは美しい

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16年にわたり、ノルウェー国立バレエ団にてプリンシパル(最高位のダンサー)として踊り続けた西野麻衣子。今回、THE ROWの洋服を身にまとい、モード界のレジェンド達とのフォトセッションで圧倒的な存在感を披露してくれた。彼女は“バレリーナ”のイメージをよい意味で覆す、パワフルかつユニークな個性の持ち主。その根底には、自分を愛し、認め、誇りに思う気持ちが流れている。それは今をたくましく生き抜くために、西野が私たちに伝えたいメッセージだ。現在はバレエ団を引退し、フリーのダンサーとして活動の幅を広げている彼女に、生きる上で大切にしている想いを聞いた。

 

つも前のめりで臨戦態勢、アニマルチックな個性とは

 

はだしの足は柔らかく地面をつかみ、長い腕は空気を包み込みながらしなやかに揺れる。撮影時、タンゴのリズムに乗せて舞う西野麻衣子のまなざしは、その場を制するように鋭い。しかし、不思議と怖さはなく、ゆとりのある動きは穏やかさと温かさに満ちている。

 「ボルドーワインみたいだった」。撮影の感想を尋ねると、西野はそう言って笑った。

 

西野 「私は人の性格や雰囲気から、いろんなことを感じ取って変わっていくタイプ。今日の撮影でスタッフの皆さんと『初めまして』と挨拶したら、地に足の着いた落ち着きというか、重さを感じたので、私の踊りもそうなっていったと思います。まるでボルドーワインみたいな」

 

現在(2023年7月時点)、43歳。6歳でクラシックバレエを始めてから、ずっとノルウェーを中心に第一線で踊り続けてきたバレエダンサーだが、同級生から「麻衣子はずっと15歳のまま」と言われるほど、等身大の姿が魅力的な女性だ。

 

西野 「アニマルチックなんですよ、私(笑)。先日、夫と一緒にワイン片手にTVを観ていたとき、夫から『もっとソファに深く腰掛けてゆっくりしたら?』と言われて気づきました。そういえば私はいつも前のめりで、ちょっとお尻が浮いている。獲物を探すライオンみたいに、すぐ動き出せるように臨戦態勢なんです。だからアクティブだし、クラスのときもトレーニングのときも、ずっとしゃべってる。ひとりでもしゃべってますよ(笑)。トレーニングしながら、ひとりでコケて『あかんやん、麻衣子、もう一回しなさい』って自分に声かけて……そういう自分と対話している時間もすごく好き」

 

まるで初対面の気がしない、気さくで魅力的な人。最初から心を全開にして向き合ってくれる。バレエダンサーは孤高の存在で近づきがたい――そんな先入観は、気持ちよく覆される。

 

西野 「舞台の上では別人なんですけどね(笑)。昔から切り替えが得意で、バレリーナモードから普段の麻衣子モードに一瞬で切り替わる。24時間バレエ漬けというのがいいことだとは思っていないんです。スタジオでは100%集中して踊るけど、スタジオを出たら自分自身に100%戻ることも大切。だって、バレエは目で見るものでなく、ハートで見るものだから。心にじーんときたものって絶対残るので、私は1時間ずっと『すごい!』と言われる踊りより、2分でもいいから心に残る踊りができれば幸せ。そのためにも自分の人生もフルに楽しんで、いいことも悪いことも含めてたくさんの人生経験を積むことが必要だと思うんです。そうでないとお客様のハートには絶対届かない」

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自分の経験も想いも、シェアをすることで成長できる

 

 

西野は15歳で名門・英国ロイヤルバレエスクールに留学し、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団。25歳のときにプリンシパル(主役を踊る最高位のダンサー)に昇進。バレエ団初の東洋人プリンシパルだった。どんなダンサーをめざしてきたのだろう。

 

西野 「私が長く所属していたノルウェー国立バレエ団では『ローカルバレリーナ』と呼ばれていました。人々にとって馴染みやすい、手の届きやすいダンサーみたいなイメージ。そう呼ばれることがすごく嬉しかった。小さいときから有名になりたいと思ったことがないんですよ。『有名』という箱に入れられるより、観た人に『あんなふうな女性になりたいな』と思ってもらえて、バレエ団からもリスペクトされるダンサーになりたかった」

 

25歳にしてバレエ団をリードする存在になったため、一気に大人への階段を駆け上がった。そんな西野を心配した両親から「支えてくれる方たちへの感謝の気持ちを忘れてはいけない」と強く言われてきたという。

 

西野 「舞台はひとりで作るわけじゃないし、私もひとりでプリンシパルになれたわけじゃない。でも、最後にお客様の拍手を浴びるのは私なので、私には一緒に働いている人たちのケアをする責任があります。だから、コール・ド・バレエ(群舞のダンサー)ともよく会話して、誰が怪我していて、誰が調子悪いとか把握してるし、舞台スタッフさんにもいつも『ありがとう』と声をかけていますね」

 

西野の前では自然と心を開ける――そんな人も多いので、周囲から「人間のスキャナー」と呼ばれているそう。

 

西野 「私には秘密がないんです。自分が経験したことは全部差し出したい。今回の公演(2023年7月28日に大阪で開催される『SWAN SONG 新たな羽ばたき』)でも、私が踊ってきたレパートリーの数々を若手ダンサーに踊ってもらうにあたって指導していますが、『何でも持っていって!』という感じ(笑)。自分の経験も、自分の想いも、人にシェアするのって楽しいじゃないですか。シェアすると私も受け取れるものがあるし、もっと成長できると思うんですよ」

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多くの女性が自分に厳しすぎる。もっと自分を大切にしてほしい

 

西野は2021年にノルウェー国立バレエ団を引退。フリーランスのダンサーとして活躍の幅を広げるほか、ノルウェーで自身のスタジオ"MAIKO"を開設した。普通にバレエを教えるスタジオかと思いきや、西野らしいオリジナルの場になっているそう。

 

西野 「一対一で教えるパーソナルスタジオですが、バレエ上達のための場でなく、オアシスのような場所でありたい。自分と向き合い、成長するための場所……だから私のクライアントはダンサーだけでなく、バレエ未経験の60代の女性もいます」

 

スタジオで西野はよくマイム(身振り手振りで言葉を表現する方法)を取り入れるという。その理由は「スタジオで鏡に向かったら、鏡に映る自分のことを好きになってほしい」から。

 

西野 「鏡の中にいる自分に向かって『私は美しい』『I love you』と語りかけてもらっています。ちゃんを気持ちを込めて言うのは、最初は難しいけれど、一日一回でもいいから自分を褒める時間を持ってほしい。というのも、多くの女性が自分に対して厳しすぎる。もっと自分を大切にして『この自分でいい』『今の自分がきれい』と思ってほしいから、鏡に映る自分に語りかけてもらうんです。そして、私が『自分の好きなところ、ひとつでも言えますか?』と聞いて答えられないときは、『私に探させてください』と言って一緒に探します」

 

あるがままの自分を受け入れる時間。西野は生徒に優しく触れ、まっすぐな瞳で見つめ、心の内を一緒に探る。まるでセラピーのようなレッスンに「よく泣いてしまう生徒がいる」というのも頷ける。

 

西野 「私は子どものころ、いじめられた経験があるし、バレエ団に入ってからもハラスメントで悩まされた時期があったので、メンタルのことは勉強してきました。バレエダンサーはいつも『もっとこうしなきゃ』『ここがダメ』と自分に鞭打ってばかりで自己肯定感が低いから、嫌な目に遭ったときに『こんな自分が悪いんだ』と、しんどくなってしまう。でも、自分に優しくできないと、他人に対しても優しくなれないですよね。だから、自分を褒める時間はとても大切なんです。私も同じ経験をしてきたから、よくわかります」

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レオタード1枚で出てきてもカッコいい女でありたい

 

バレエ団引退後の西野は、ダンサーとして舞台で踊る以外にもさまざまな活動をしている。美術館で音楽家が演奏するのにあわせ、即興で踊る西野を画家が描くライブペインティングや、ファッションブランドのショーを劇場で行い、ダンサーとモデルとミュージシャンをランウェイに上げるコーディネートをおこなうなど、ジャンルの枠を超えた活動が興味深い。

 

西野 「私はダンサーとしても、女性としても、ただ『すごい』で終わりたくない。もっと知りたい、もっと学びたい、もっとインスピレーションを得たい、もっとチャレンジしたい。踊り手としては現役のころとはまた違う自分がいるし、バレエダンサーのすごさを世の中に広めるアンバサダーでもありたいと思っています」

 

今、西野にはチャレンジしたいことがあるという。それはなんと、ボルダリング(壁面を登るクライミングの一種)。

 

西野 「息子が生まれてから、なぜか高いところが怖くなってしまって、それを克服したい。ビビる自分が嫌(笑)。あと、今回の撮影もすごいチャレンジ。撮影というより、たくさんの人がかかわって、みんなで作り上げるパフォーマンスみたいだった。今回着せてもらった『The Row』のファッションも初めてだし、ウィッグであんなに顔を隠したのも初めてで、眉なしのメイクも初めて。初めてのチャレンジ尽くしで、宝石箱を開けたみたいな気分です」

 

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撮影を終えた西野は「バギーパンツを履いたら男っぽくなるかなと思っていたけど、鏡を見たら女らしさが出ていて嬉しかった。女でよかった」とほほ笑む。

 

西野 「女性ってパワフルなんですよ。これからの世代、もっと女性がパワフルになって『私は私』という意志をしっかり前に出せるようになるといいと思う。私は、母と祖母、そして『バレエの母』であった橋本先生と、3人の強くてカッコいい女性たちの影響を受けて育ってきたので、女性であることを誇りに思っています。私は女性に生まれてよかったし、衣装を着ずにレオタード1枚で出てきてもカッコいい女でありたい」

 

冒頭でボルドーワインの例えが出たが、西野自身がまさに赤ワインのようだ。これからも歳を重ねるごとに深みを増し、力強さのある味わいになっていくだろう。そんな西野麻衣子の熟成をこれからも見守り、いつまでも味わっていたい。

 

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Ballet dancer : Maiko Nishino

Photographer : Yumiko Inoue

Stylist : Tomoko Kojima

Hair: Koichi Nishimura

Makeup: UDA

​Interview: Akiko Tominaga

All Clothes : THE ROW

1-4 Hooded Scarf  ¥639,100、Belt ¥154,000 / THE ROW

5-8 Jacket ¥438,900、Vest ¥270,600、Shirt ¥181,500、Pant ¥218,900 / THE ROW

西野麻衣子/Maiko Nishino

大阪生まれ。6歳よりバレエをはじめ、橋本幸代バレエスクール、スイスのハンス・マイスター氏に学ぶ。15歳のときに名門英国ロイヤルバレエスクールに留学、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団。2005年、25歳で同バレエ団東洋人初のプリンシパルに抜擢される。同年、ノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られる「ノルウェー評論文化賞」を受賞。2016年、自身のドキュメンタリー映画『Maikoふたたびの白鳥』が日本で公開され、話題に。2021年にバレエ団の引退後はフリーダンサーとして活躍の幅を広げている。

2023年年7月28日、引退後初となる自主公演『SWAN SONG 新たな羽ばたき』を大阪にて上演する。

<公演情報>

『SWAN SONG 新たな羽ばたき』

 ~西野麻衣子(元ノルウェー国立バレエ団プリンシパル)With Friends~

 

日 時/2023年7月28日(金) 18:00開演(17:00開場)

会 場/東大阪市文化創造館大ホール(大阪府東大阪市御厨南二丁目3番4号)

出演/西野麻衣子(元ノルウェー国立バレエ団プリンシパル)

厚地康雄(元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)

ルカス・リマ(ノルウェー国立バレエ団プリンシパル)

ジョナサン・オロフソン、槇 美晴、氏家怜奈、西村奈恵(ノルウェー国立バレエ団)

長岡丈周、田中月乃(ノルウェー国立バレエ団2)

ピアノ/佐藤美和、ハープ/福井麻衣 

※やむを得ぬ事情により、出演者、演目、開演時間等に変更が生じる場合がございます。

Official Site: https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/6673

Official Instagram: https://www.instagram.com/swan_song_2023/

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