Issue 017  飯島望未 × Chika Kisada

美と革新と

飯島望未×Chika Kisada

 2021年8月上演予定のバレエ公演「BALLET The New Classic」に先立ちお届けするインタビューシリーズ。第一弾では出演者のひとり、ヒューストン・バレエ団プリンシパルの飯島望未、そして自身もバレリーナのバックグラウンドを持ち、今回満を持して舞台衣装を手がけることになった「Chika Kisada」「REKISAMI」ファッションデザイナー、幾左田千佳へのインタビューを公開。

 公演約半年前、まだクリエーションの初期段階にいる二人が今まさに直面している挑戦、対する意気込み、それぞれが持つ強い信念とは。モードの力を借りながら「クラシック」を単なる古典としてではなく、長い時間の洗礼を受けて残ったものとして表現する際、舞台の上と裏では何が巻き起こるだろうか。美と反骨精神を携えて活躍する二人が向かう「新しい定番」の手がかりを伺った。

衣装を着た瞬間に変わるキャラクター

 

―今回撮影された先行ビジュアルについて教えてください。

 

幾左田 今回のビジュアル撮影では、コレクションアーカイブから望未さんに一番合いそうなものを選んでみました。もう、望未さんにぴったりのイメージ!これまでも多くのファッションモデルに着てもらう機会がありましたが、全く違う世界を作ってくれました。

 

飯島 本当ですか!

 

幾左田 2019年に望未さんが踊られた「ロミオとジュリエット」の“バルコニー”のパ・ド・ドゥ(Bunkamuraオーチャードホール「オーチャード・バレエ・ガラ 〜JAPANESE DANCERS〜」内)を拝見した時も、役に入り込むエネルギーがすごくて鳥肌が立ちました。撮影でも衣装をまとった瞬間から違うキャラクターになっていたので、ただただ感動しきりでした。

 

飯島 私、衣装とメイクですごく変わるんですよ。「好き」って思えないとテンションが上がらない。衣装のサイズが合わなかったりデザインが可愛くないとどうしようもなくて、メイクに時間かけちゃう(笑)それくらい私にとって大事なものです。

 

―飯島さんはポージングのイメージはありましたか。

 

飯島 事前にあれこれポージングを考えていたけれど、衣装を着た瞬間に「これ」というのがパシッと決まった気がします。撮影でも千佳さんのクリエイティビティが私に「そうさせた」というか。クラシックな雰囲気の空間、超コンテンポラリーで抽象的な衣装、すべてミスマッチなはずなのに異様にマッチしていました。途中ノーメイクになってからはますます気持ちが入って心地よかったです。ショートヘアだし、中性的な雰囲気が自分でも新鮮で!

飯島望未×Chika Kisada
飯島望未×Chika Kisada

現在進行形、新しい挑戦との葛藤

 

―この公演では、幾左田さんは初めて舞台衣装のデザインに、飯島さんは日本のお客さんの前で初めてコンテンポラリー振付作品を披露することに挑戦されます。

 

幾左田 もう少し先に実現する夢だと思っていたチャンスを思いのほか早く頂けたことが嬉しく、楽しみながら進めています。今の時代に向けて磨き抜かれた究極の身体を美しく見せる方法、クラシックバレエの定義を完全にぶち壊す素材やディテールの使い方をストイックに考えてデザインしているところです。でも衣装はあくまでダンサーの動きを陰から支えるもの。デザインを成立させながらいかに踊りやすくするかの計算が難しくて…日々挑戦の連続です。

 

飯島 私はヒューストン・バレエ団の同期でもあるシャール=ルイ吉山の振付を踊る予定です。自分がいつも横で踊っているダンサーに振り付けられるのは面白いですよ。同期だから他の振付師とは違うパートナーシップを築けるし。すでに何度か稽古もして、今は彼の思いをインプットしている最中なんですけど、誰が見てもシャールの動きだからシャールになりきって踊らなあかんわって(笑)日本のお客さんに初めてコンテをお披露目することへの不安もあるんですけど…。

 

幾左田 そういうこと考えるんだね。望未さんは今年他にも日本での公演を控えていて、周囲の期待も高まっているはずだから今どんな気持ちなんだろうって気になってました。

 

飯島 もちろん周りの期待についても考えるし、お金を払って観に来てくださるお客さんを楽しませることは大前提としてあります。でも私の場合そこにあまり左右されることはないかも。作品のコンセプトを感じて、自分が納得して踊ることが期待に応えることにつながる、そのために日々のリハーサルやトレーニングがあるという感じです。

 

幾左田 なるほど。私もお客さんに喜んでもらう意識がまず最初にあるけど、最終的に自分が納得したものを作れたかどうかで、その先のお客さんの満足度が決まると思っています。

―幾左田さんは現在各衣装の設計作業に入られているとのことですが、飯島さんの衣装は具体的に進んでいますか。

 

幾左田 望未さんは他にも「ライモンダ」を踊られますが、実は2演目とも悩ましくて…ファッショナブルな望未さんのイメージを良い意味で裏切りつつ「やっぱりかっこいい」となるデザインはどんなものだろうと、描いては消しての繰り返しです。

 

飯島 千佳さんが作る衣装ならなんでもかっこよくなると思いますよ!コンテ=シンプルっていうよくあるイメージも忘れていいかもしれない。

 

―それを飯島さんが身にまとったら、一層作品のメッセージが伝わるはず。

 

飯島 それこそ公演テーマにぴったり。

 

幾左田 確かに。一旦自由になって考えてみます。

 

飯島望未×Chika Kisada
飯島望未×Chika Kisada
飯島望未×Chika Kisada

Chika Kisadaの世界がバレエに出会う時

 

飯島 他の作品の衣装も気になります。「瀕死の白鳥」みたいなザ・クラシック作品がどうなるかすごく楽しみ。

 

幾左田 「瀕死の白鳥」はかなり面白くなりますよ。白鳥の衣装で必ず使われる羽を使わずに、シャツなどに使用するコットンブロードと塩化ビニールを使って、踊るほど羽に見えてくるという仕掛けを考えてます。

 

飯島 おおー、どこが羽に見えるんですか?

 

幾左田 (種明かしをしながら)記事を読まれる皆さんは、公演当日のお楽しみということで。

 

飯島 これは新しいですね。そんな衣装であの音楽と振付を踊るって、想像しただけでかっこいい!

 

―バレエ衣装を超えて美の概念すら揺さぶる斬新なアイデア、飯島さんも仰るように想像するだけでワクワクしてきます。他に現段階で決定している案はありますか。

 

幾左田 「眠れる森の美女」の「ローズ・アダージョ」は私の好きなピンクを使えるので、とんでもないピンクのお姫様にしようかと。だって4人の王子を並べて選ぼうとする時点でおかしいじゃないですか(笑)

 

飯島 (笑)

 

幾左田 そういう、客観的に見て疑問を持つポイントを少し皮肉る衣装にしたい。圧倒的で力強いフェミニティをテーマにしようと計画しています

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変わらない伝統のために変えていくもの

 

飯島 バレエを知らない人が公演を観る時、どうしても見た目のインパクトで作品を判断することになります。デザイン、ファッション性を大事にしている「BALLET The New Classic」をきっかけに、素晴らしい才能を持ったダンサーたちの存在をバレエファンでない方たちにも知ってもらえたらと思ってます。

 

―現代を生きるお客さんが直感的に魅力を感じられるヒントは必要ですよね。

 

飯島 もっと日常会話の中で「今これやってるから観に行こう」「週末さ、ロミジュリ観に行かない?」とバレエをカジュアルに話題にして観る人が増えたら嬉しいです。そういう状況を増やしたくて、私はバレエ以外で興味のあるファッションをとおしてバレエを知ってもらうきっかけを作ろうとしてます。

実際、私のインスタグラムをフォローしてまずファッションを好きになって、そこからバレエに興味を持ってくれて、今では私が出ていない日本のバレエ公演にも足を運ぶようになったというファンの方がいるんです。そういう人がもっと増えたらいいなって思います。

 

幾左田 私も日常でバレエをより身近に感じてもらいたいという思いがとても強くて、コレクション毎に色んな方法を模索しています。自分自身、職業柄もあってクラシックバレエ公演を観てても違和感を覚えて踊りに集中できないんです。衣装がクラシックすぎる、装飾的すぎるのが気になって「今こんな格好しないのに、なぜこんなデザインに?」と。男性ダンサーの衣装は一段と現実離れしてますしね。

 

飯島 確かに、私も男性ダンサーの白タイツを見て「なぜ貴族はそんな格好をするんだろう」と疑問に思うことがあります。「バレエはそういうもの」という考え方もありですけど、先に続いてくためにはそれだけではいけないと思います。

飯島望未×Chika Kisada

―私事になりますが、クラシックバレエは数年に1度しか鑑賞しません。その度に現代の日常からかけ離れすぎている世界との距離とどう付き合うか、美しさも確かに感じているのに同時にもどかしさも覚えます。おそらく私だけでなく、中世のお姫様や貴族の世界を目前にどうしても初心者フェーズから先に行けない人は多いのではと思います。こういった状況もふまえ、今回「BALLET The New Classic」では「ニュークラシック=新しい定番」と解釈してさまざまなことに挑戦しますが、具体的にどのようなアプローチが必要だと考えますか。

 

飯島 変わらないものは変わらないでいいと思うんです。やっぱりバレエには伝統があって、決められた振付、衣装、音楽、そういう崩してはいけないものがあるから。でも変わらないものを伝統として守るために、踊りの見せ方や意識は変えていかないと続かないとも思います。ダンサーひとりひとりが個性を発揮できる見せ方ができたら、きっとお客さんが同じ作品でも毎回違う気持ちで繰り返し観ることができるはずですよね。

 

幾左田 現代のクラシックバレエはまさに「眠れる森の美女」。何百年と眠り続けて目覚めたら現代になってた、みたいな。現実離れした世界観は良い点でもあるけど、バレエを現代の日常から遠くさせている。チュチュをそのまま着ることはないにしても「街でこういう雰囲気の服が着たいな」とお客さんに思わせる要素をどんどん出していけば、バレエ初心者の方も入りやすいはず。今回の公演でこういった価値観も変わっていくのではと、非常に可能性を感じています。

飯島望未×Chika Kisada

外から新しい風を吹かせる存在

 

―変えるもの、変えないものをどう選んでバランスをとるか、その意識がダンサー自身にもあることが大事ですね。出演者もスタッフも一丸となってクリエーションをしている印象を受け、チームのあり方にも熱量を感じます。

 

飯島 クラシックバレエは与えられたものを綺麗にこなす芸術なので受け身である必要はあるけれど、その中でも日本人ダンサーは特に受け身な人が多い気がします。ダンサーを取り巻く状況も古いと海外で活動していて尚更感じます。だから「BALLET The New Classic」で重要なのは、千佳さんのような新しい方向に導いてくれるダンサー以外の存在。ダンサーの固定概念を崩して新しい風を吹かせてくれる人たちが必要なんです。ファッション性も必要だし、違う角度からの視点で動いていかないと今までのやり方が変わらない。

 

幾左田 この公演には第一線で活躍されているヘアメイクさんをはじめ、さまざまな分野のプロがクリエイティブに関わっているので、私もこれ以上ない贅沢なメンバーだと思います。

 

―特にバレエの経験もある幾左田さんが、踊りの印象に大きく関わる衣装を担当されることには意義があると感じます。中世から存在するモチーフを現代的に再解釈した服作りもされているので、クラシックバレエと非常にシンクロするコラボレーションだなと。

 

幾左田 ありがとうございます。私のクリエーションの軸は「パンクバレエ」、つまりすでにあるものをとにかく真正面から否定して新しいものを作る姿勢です。この公演でもそれは変わりませんし、そういうエネルギーを全員で大切にしていきたいです。

 

飯島 肯定も大事だけど、疑問を持って否定することも大事ですね。

 

幾左田 望未さんはじめ、美しさの中に強い軸を持っているダンサーの踊りを支える衣装を作らせていただくというのは、これ以上ない喜びです。舞台に出るまでに起きるたくさんのドラマを、本番数分の世界で爆発させたいですよね。どんな方が観ても面白いって思っていただける舞台にしたいです。

 

飯島 そんな衣装に呑まれないように私も踊りも頑張りたいと思います。

STYLING : 幾左田千佳(Chika Kisada)

PHOTOGRAPHER : 井上ユミコ

INTERVIEWER & WRITER :  瀧瀬彩恵

SUPPORT : 梅田亜希子(KuRoKo inc.)  金田幸二(ホテルスプリングス幕張)
LOCATION SUPPORT : ホテルスプリングス幕張

飯島望未×Chika Kisada

飯島望未/Nozomi Iijima

バレエダンサー。大阪府出身。

6歳からバレエを始める。2007年15歳で単身渡米。ヒューストン・バレエ団の研修生となり、翌年プロ契約を結ぶ。

入団当時、最年少契約としてプロデビュー。

2019年3月には、ヒューストン・バレエ団のプリンシパルに昇進。

インスタグラムを通して自身のファッションにも注目を集め、“香りの世界観”をダンスで表現した17年の「シャネル N°5 ロー」グローバルプロジェクトに始まり、18年のウォッチコレクション「コード ココ」のアンバサダー、「ルージュ アリュール」「ヴィタルミエール グロウ」のデジタルキャンペーンにも起用される。また2019年1月よりシャネルビューティーアンバサダーに就任する。

飯島望未×Chika Kisada

幾左田千佳/Chika Kisada

幼少期よりクラシックバレエを学ぶ。

バレリーナのバックグランドを着想源にモノづくりを展開。

バレエと音楽、都市の空気をインスピレーションに、強く生きる女性のための服を製作。

2007年 「REKISAMI」を立ち上げる。

2014年 デザイナーの価値観をより強く反映したシグネチャーライン「Chika Kisada」を立ち上げる。

2016年 TOKYO FASHION AWARD 2017 受賞。

東京コレクションでランウェーショーを発表。

同年、株式会社ゴールドウイン 「DANSKIN CAPSULE COLLECTION」のディレクション、デザイナー就任。

2018年 FASHION ASIA HONG KONG 2018受賞。

同年、イタリア ミラノコレクションでランウェーショーを発表。

2020年 株式会社ゴールドウイン 「DEAR DANSKIN」 を立ち上げ、ディレクション、デザイナーを担当。

<公演情報>

「BALLET  The New Classic」

 2021年8月上旬開催

出演 : 中村祥子、堀内將平(K BALLET COMPANY プリンシパル)、シャール=ルイ吉山(ヒューストン・バレエ団 プリンシパル)飯島望未、and more 

 

現在オフィシャルインスタグラムにて、順次情報公開中。

Official Site

https://www.balletthenewclassic.com

Official Instagram

https://www.instagram.com/balletthenewclassic/?hl=ja

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