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© 2018 by Alexandre Magazine

Issue 006  マルセロ・ゴメス&上野水香

独占潜入 『ボレロ』ができるまで

 7月31日より始まる「フェリ、ボッレ&フレンズ」は、バレエ界のレジェンドであるスーパースターのアレッサンドラ・フェリとロベルト・ボッレを中心に、綺羅星のような世界的なスターが集結した贅沢なガラ公演だ。それも単に有名作品のパ・ド・ドゥを並べたのではなく、日本では一度上演されたことがあるだけの、選ばれたダンサーしか踊ることが許されない『マルグリットとアルマン』全編、そして巨匠ジョン・ノイマイヤーがフェリのために振付けた『ドゥーゼ』より、「フラトレス」を上演し、ノイマイヤー自身が来日して振付指導に携わるなど、芸術性の高い公演となった。

 

 この公演に出演するトップスターのマルセロ・ゴメスと、日本を代表するプリマ・バレリーナである上野水香は、名匠ローラン・プティの『ボレロ』で共演する。この作品のデュオ・バージョンは、初演キャストであるルシア・ラカッラとマッシモ・ムッル以外では、上野と同僚の柄本弾が昨年の上野プロデュースのガラ公演「Jewels From Mizuka」で踊ったことがあるだけだ。プティ作品の指導を担うルイジ・ボニーノが来日して振付指導に当たったリハーサルを取材した。

 上野水香とマルセロ・ゴメスは、まだ2回目のリハーサルだというのに、すでに作品の独特な個性をつかんで、見事なパートナーシップを発揮していた。英語、フランス語が飛び交うリハーサルは熱い。明るく和やかなボニーノだが、プティ作品へのこだわりは厳しく、何回も踊りを止めて細かい修正を加えていく。さらに上野とゴメスも、他のリハーサルではなかなか見られないほど多くの会話を交わし確認して、細部まで調整していった。楽しげに進むリハーサルだが、一秒も無駄にすることなく集中度は高い。二人とも汗だくになっていくが、息を切らすこともなく、指摘された点はすぐに直してパートナーリングの精度を上げていく。バンダナを外してはらりとゴメスの前髪が落ちている様子が、とてもセクシーだ。

 最後に作品を通して観たが、すでにかなり完成度が高く思わず手に汗を握った。リハーサルであるにもかかわらず作品の世界に引き込まれた。男女がこれから戦いに臨もうとするオープニングから始まり(実際の舞台ではボクシングの試合がイメージされている)駆け引きや闘争がやがて、息詰まるような濃密な愛へと昇華していく過程が、コケティッシュに、時にはユーモラスに、時には官能的に表現されている。プティが愛した、語りかけるような長い美脚の上野、パートナーリングの上手さに定評のあるゴメスのそれぞれの魅力が発揮されて、本番の舞台への期待が否が応でも高まった。そしてリハーサルを終えた二人に話を伺った。

上野水香 挑み続けるミューズ 

 上野水香の代表作にベジャールの『ボレロ』がある。日本人女性でこの作品を踊ることを許されたのは彼女だけだ。その上野が、自身のプロデュース公演「Jewels From Mizuka」でまったく違った『ボレロ』に挑み、新境地を開いたと高く評価された。今回は、パートナーをマルセロ・ゴメスに代えての二度目の挑戦だ。

 

 

 「私が何度も何度も踊ってきたベジャール版の『ボレロ』はソロで一人で踊るものです。リズムを踊るダンサーたちはいますが、やはり一人で踊る作品の醍醐味があります。プティ版の『ボレロ』はパ・ド・ドゥがあってこその作品で、二人で作り上げていく作品です。この「ボレロ」の中に、ローラン・プティさんの独特の感性が入り込んで、男女間の駆け引きだったり、視線の交わし方だったり、ルイージさんがおっしゃるには、二人が喧嘩をしているようなイメージです。最初、ボクシングの試合が始まるかのように始まりますよね。なのでお互いすごくけん制し合っているんです。だけどそこにはとても深いつながりだったり、愛があったりして、戦いでありながら一種の深い愛情表現でもあるということを、ルイージが話してくださったのが印象的でした。それがテーマだと思っています。男女間の感情って色々ありますが、その中に深い愛情があって、それが最後に昇華する、そういう作品だと思っています。そういったことを、同じリズムと同じメロディの連続、そこからだんだん音楽が感情的なものも一緒にクレッシェンドしていって、盛り上げていくので、本当に二人の綿密なものが要求されます」

 日本では類を見ないほど世界中のトップダンサーと共演してきた上野だが、ゴメスと踊るのは、やはり「Jewels From Mizuka」で踊った『リベルタンゴ』に続き今回がまだ2回目だという。

 

 「Jewelsの時に私が柄本弾さんと踊った『ボレロ』をゴメスさんが観て、私と踊ってみたいと思ってくれたそうです。ルイージ(・ボニーノ)に聞いたら、二人が踊ったらとても良いと思うから、ぜひ何かの機会で踊ってほしいと言われたので、今回この機会に踊ることにしました」

 

 「この『ボレロ』を彼が踊るのは今回が初めてですが、トップグレードのダンサーですから覚えるのも、ものにするのも早いですね。この作品をこんな風に踊るんだという、一緒にやっていていい意味でのギャップがあり、とても刺激を受けています。これからどんどん合わせていくと、きっといい化学反応が出てくると期待しています。

 「Jewels From Mizuka」は、昨年の公演が2回目。バレエ団の枠を超えて日本のトップダンサーが集結したばかりでなく、ゴメス、そしてウラジーミル・マラーホフと海外のスターも出演した異色の公演となった。上野のカラーが前面に出た、お洒落でありながら親密さも感じられる、魅惑的な公演で彼女のプロデューサーとしての力量にも驚かされた。

 

 「ガラのプロデュースはすごく大変ですが、いろんな舞台を踏ませていただいている中で、これやってみたいな、こんな作品があったら素敵と思ってきた、今まで長く踊ってきた中での私の想い、それを一日に、自分ができる限りぎゅっと凝縮して、やりたいことを詰め込みました。自然にそういう風にできたのです。大変なことも多かったですが、それ以上に喜びが多くて、自分が何を踊るかということも含め、誰が何を踊る、どういう作品を上演してどのような構成にする、どんな音楽を使う、そういうことをすべてが、やりたいことそのものでした。やはりそれはとても幸せなことだと思って。私はプロデュースをすることがとても好きです」

上野は海外のガラ公演への出演経験も豊富だが、「フェリ、ボッレ&フレンズ」という世界的なスターが集結し、しかも芸術性も非常に高い公演への出演によって、今後の彼女のアーティストとしての成熟もさらに高まると期待される。

マルセロ・ゴメス 世界が熱望する紳士

上野水香と『ボレロ』で共演するマルセロ・ゴメスは、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパルとして20年活躍した他、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』のザ・スワン、ザ・ストレンジャー役にも出演したり、振付も手掛けるなど幅広く活動してきた。一昨年にABTを退団し、フリーランスのダンサーとしての活動を開始したが、世界各地のバレエ団にゲスト出演するなど、精力的な活動を見せている。

2回目の共演となった上野水香は、彼にとって、どのようなバレリーナなのだろうか。

 

 「パートナーシップは構築するのに少し時間が必要で、お互いをアーティストとしてだけでなく、人間としても理解することが大切です。昨年の彼女のガラ公演で水香のことを少し知ることができました。彼女はとても優しくて周りに気を遣っているし、日本では有名人なのにとても腰の低い人です。ガラ公演の時も、出演者全員とお辞儀をしたほどで、なんて素敵な人なんだろうと思いました。スタジオでの稽古もとてもやりやすかった。動きがとてもクリアで、音楽性にも優れています。ガラ公演で彼女が柄本弾さんと『ボレロ』を踊ったのを観て、今度は僕がこれを彼女と踊りたい!と思ったのです。ちょうどタイミングがうまく合って、ルイジ・ボニーノと彼女でこの作品に取り組むことができました」

 

 「水香からは違ったものを引き出したいと思っています。舞台に立つことの素晴らしさは、バレエという芸術は常に進化し続けているということです。この『ボレロ』はずいぶん前に創られた作品なので、今の時代に合わせて進化させなければなりません。でも僕たちはお互いからいろんなものを引き出すことができるし、『ボレロ』のような作品ではそれはとても大切なことです。16分もあって比較的長い作品だし、盛り上がったり落ち着いたりしています。ボクシングのように最初は駆け引きをしていてディフェンスや攻撃もします。初演の二人が踊った映像を何回も観て学んだので、最初のリハーサルから二日で作品を覚えて通すことができました。リハーサルが上手くいって幸せだったと同時にちょっと驚きました。公演までもう少し時間がありますので、さらにリハーサルを重ねることができるのも嬉しいことです。リハーサル室ではとてもポジティブな雰囲気があるのも良かった。とても一生懸命、全力で稽古しなければならないしご覧の通り汗だくになるけど、明るい空気をまとっていることもとても大事です」

「フェリ、ボッレ&フレンズ」の座長であるアレッサンドラ・フェリとロベルト・ボッレは、共にABT時代の同僚であった。また、ゴメスは自身の振付作品『アミ』でハンブルク・バレエのアレクサンドル・リアブコと共演し、さらに『アモローサ』では同じくハンブルク・バレエのシルヴィア・アッツオーニと踊る。

 

 「今回のガラ公演は演目も新鮮なもので、なかなか観られないものばかりなのがいいですよね。世界的なトップアーティストが集結しただけでなく、アレッサンドラとロベルトの輝かしいキャリアを祝うものでもあるのです。彼らがダンスの世界にどれほどのものをもたらしか、ということを見せて、僕たちは彼らをサポートしに来ているのです。彼らはバレエ界のレガシーであり、バレエの歴史の本に刻まれるような存在であり、彼らの歴史の中にぼくたちが存在できるのはとても光栄なことです。僕はアレッサンドラとは何回も共演していて、幸せでした。日本に来る前にも、北京のガラ公演で共演してきたばかりです。彼らは同僚であっただけでなく、とても大切な友人でもあるし、お互いから学び続けてきました。今回、彼らが僕に声をかけてくれたのも本当に感動的なことでした」

 

 「サーシャ(リアブコ)とシルヴィアとも何年も親しくしていて、今では大親友となりました。何度も一緒に食事をしたり、一緒に笑い合ったりおしゃべりをして来たのに、彼らをパートナーとして踊ったことは一度もなかったのです。僕の振付作品を披露する機会があるのは大きな幸せであり、それを素晴らしいダンサーが踊ってくれるのはさらに嬉しいことです。サーシャと踊る『アミ』(フランス語で友達、という意味)はとても大切な、僕にとって特別な作品です。ショパンの曲を使って舞台上でピアノの生演奏で上演します。一緒に育ってきた二人の友人の友情、愛情、そして競争心についての美しく繊細な作品です。シルヴィアと踊る『アモローサ』はリカルド・グラツィアーノという僕と同じブラジル人の振付家による作品。グラツィアーノは、僕がゲスト・プリンシパルを務めるサラソタ・バレエの常任振付家で、この作品は全幕作品ですが、今回は最後のパ・ド・ドゥを踊ります。今回の公演は日本の観客が観たことがないような新鮮な作品が多くて、とってもエキサイティングになりますよ」

 ゴメスは、紳士的で丁寧なパートナーリングの上手さに定評があるダンサーで、世界中の女性ダンサーが彼と踊りたいと熱望する存在だ。特にディアナ・ヴィシニョーワとのパートナーシップは有名で毎回チケットが売り切れるほどである。フリーランスとなった今も、彼女を始め、フェリ、ニーナ・アナニアシヴィリ、ジュリー・ケントといったダンサーたちが共演したり、芸術監督を務めるバレエ団のゲストとして彼を招いたりしている。そしてゴメスは、輝かしいキャリアの第二章で新しい道を切り開いている。

 

 「長いキャリアを重ねてきた後も、今まで踊ったことがない作品に挑戦し、緊張した気持ちで舞台に立てるのは素晴らしい経験だと思っています。『ジゼル』や『白鳥の湖』だけでなくて。舞台はライブ・パフォーマンスである上に、新作を踊るというのはほとんど実験のようなものだから、とてもわくわくします。振付けることもとても好きなので機会があれば創作していきたい」

 まだまだ少年のような面差しを残しているゴメスは、これまで一緒に踊ったバレリーナたちへの愛と絆を熱っぽく語ってくれた。

 

 「今は舞台に立つことを愛しています。そして今まで踊ったバレリーナたちが僕を招いてくれることも本当にうれしい。ニーナ・アナニアシヴィリはジョージア国立バレエに、ジュリー・ケントはワシントン・バレエにゲストとして招いてくれたし、アレッサンドラやディアナとも一緒に踊る機会がある。彼女たちとの絆はかけがえのないものです。観客に僕たちのパートナーシップを見せることも大切なことだと思っています。僕たちの世代は、今の若い人たちと違って、パートナーとの舞台上の関係を深めていくことが大切だと考えています。動きにはどのような意味があるのか、ステップにはどのような意味があるのか、リフトはどうやって行うのか、パートナーリングはとても細かい仕事なのです。今はカンパニーの一員ではないので、8作品同時並行でリハーサルするなんてことはなく、じっくりと作品に取り組めるし、身体の調整もしっかりできて休む時には休んで回復させることができます」

 

 「先日はドイツのドレスデン・バレエにゲスト出演をしました。2か月そこで過ごして、短い期間だけどバレエ団とは強い絆で結ばれて素晴らしい時を過ごしました。ゲスト出演をする時は自分のことを考えなくて、カンパニーを優先的にするべきだと考えています。ここ東京バレエ団や、サラソタ・バレエ、ワシントン・バレエのように、とても温かく迎えてもらえました。自分でスケジュールを組めるのもいいことだし、自由があって世界中の様々なアーティストと仕事ができるのは幸せなことです。こんなに恵まれていていいのかと思うほどです。大好きなバレリーナたちともっと踊りたいと思っています。二人の人間が舞台の上で本当につながってお互いに耳をそばだてている姿が観られる経験は稀有なものです。バレエは芸術であり、教えられるものではありますが、自分の中から生まれ出るものでもあると感じています。パートナーが感じることを感じていたいし、それが僕の幸せです。そしてまた大好きな日本に必ず帰ってきます!」

上野水香とマルセロ・ゴメスという新しいパートナーシップが誕生ずる瞬間を、ぜひこの目で確かめてほしい。アレッサンドラ・フェリとロベルト・ボッレというレジェンドに続く、新たな伝説がこの夏東京でヴェールを脱ぐ。

INTERVIEWER: 森菜穂美 

VIDEO AND VIDEO EDIT: 河内彩

VIDEO AND EDITOR: 井上ユミコ at Alexandre                    

<フェリ、ボッレ&フレンズ東京公演 概要>

 

日程

Aプロ
7月31日(水) 19:00

8月1日(木) 19:00

8月3日(土) 13:00

Bプロ
8月3日(土)18:00

8月4日(日)15:00

 

会場

文京シビックホール 大ホール

 

入場料

S席 18000円
A席 16000円
B席 14000円
C席 11000円
D席 8000円

▼オフィシャルサイト

https://www.nbs.or.jp/stages/2019/ferri-bolle/

Aプロ

「カラヴァッジオ」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ 音楽:ブルーノ・モレッティ
出演:ロベルト・ボッレ&メリッサ・ハミルトン

 

「フォーリング・フォー・ジ・アート・オブ・フライング」
振付:ナタリア・ホレチナ 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
出演:シルヴィア・アッツォーニ&アレクサンドル・リアブコ

 

「ボレロ」
振付:ローラン・プティ 音楽:モーリス・ラヴェル
出演:上野水香&マルセロ・ゴメス

 

「アミ」
振付:マルセロ・ゴメス 音楽:フレデリック・ショパン
出演:マルセロ・ゴメス&アレクサンドル・リアブコ

 

「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー 音楽:スキャナー
出演:ロベルト・ボッレ&メリッサ・ハミルトン

 

「アルルの女」
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー
出演:シルヴィア・アッツォーニ&アレクサンドル・リアブコ

 

「マルグリットとアルマン」全編
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:フランツ・リスト
出演:アレッサンドラ・フェリ、ロベルト・ボッレ、マルセロ・ゴメス、アレクサンドル・リアブコ、他

Bプロ

「バーンスタイン組曲」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:レナード・バーンスタイン
出演:アレッサンドラ・フェリ、シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ、カレン・アザチャン、アレクサンドル・トルーシュ、マルク・フベーテ

「リベルタンゴ」
振付:高岸直樹 音楽:アストル・ピアソラ
出演:上野水香&マルセロ・ゴメス

 

「オルフェウス」よりパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー  音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキーほか
出演:ロベルト・ボッレ&シルヴィア・アッツォーニ

 

「TWO」
振付:ラッセル・マリファント 音楽:アンディ・カウトン
出演:ロベルト・ボッレ

 

「アモローサ」
振付:リッカルド・グラツィアーノ 音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
出演:シルヴィア・アッツォーニ&マルセロ・ゴメス

「作品100~モーリスのために」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:サイモン&ガーファンクル
出演:ロベルト・ボッレ&アレクサンドル・リアブコ

 

「フラトレス」(「ドゥーゼ」より)
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:アルヴォ・ペルト
出演:アレッサンドラ・フェリ、アレクサンドル・トルーシュ、カレン・アザチャン、カーステン・ユング、マルク・フベーテ

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