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© 2018 by Alexandre Magazine

Issue 005  木村優里×沢渡朔〈前編〉

生真面目な妖精

 日本を代表するバレエ団、新国立劇場バレエ団に入団して4年目、今が伸び盛りの新星、23歳の木村優里。新国立劇場バレエ研修所時代から注目され、入団前に『白鳥の湖』のルースカヤというソリスト役で同バレエ団の公演に出演し、一年目に早くも『くるみ割り人形』で主役を演じるなど順風満帆のキャリアを築いてきた。お姫様役だけでなく、最近は敵役を演じる機会や、バレエ団員による創作作品にも参加するなど、役の領域も広げている。すらりと長く伸びた手脚から繰り広げられる優雅な動き、少女の面影を残す大きな瞳のあどけない容貌、そして得意の回転技など輝かしいテクニックも持つ木村は、生真面目さと知性の中にも独特の感性で存在感を放っている。

 そんな木村優里のきらめきを、巨匠沢渡朔がカメラに収めた。もともとは医院だったという古い洋館で撮影は行われ、タイムトリップして、不思議の国に迷い込んだ妖精のような新しい一面を見せてくれた。

 「今日、このような異分野のアーティストの方々とのコラボレーションをすることができて、とても嬉しかったです。自分の表現に活かしていけると思いますし、ありがたい機会です。今回はとても個性的な、色彩の素晴らしいファッションを身に着けることができて、自分の引き出しを豊かにしてもらえる経験でした。今日はクリエイターの皆さんと同じ空間にいられるだけでも幸せでした。ミュージックビデオを観るのが好きなのですが、きゃりーぱみゅぱみゅの独特な世界観に魅かれていています。彼女自身の魅力に加えて、周りのクリエイターたちが力を合わせて総合アートの世界になっているのが素敵だと思います」

自分の泣き声で目が覚めるほど、役柄に入り込む

 

 研修所時代から木村優里の踊りを観てきたが、最近の彼女は踊りの技術、そして持ち前の舞台度胸に加えて”演じる“力をめきめきつけてきたように感じられる。心臓の弱い娘ジゼルが、恋人に裏切られて狂死し、ウィリという精霊となって彼を守るという『ジゼル』に初役主演した時には、その心を震わす演技はセンセーションを呼んだ。古代インドを舞台にした『ラ・バヤデール』の、主人公ニキヤの恋敵ガムザッティ役では愛する男を手に入れるためにはどんなことでもする、という強い意志を感じさせ、鮮烈な印象を与えてドラマを盛り上げた。

 

 「それまで全幕作品で、演技の部分で深く役に入り込むということがあまりありませんでした。『ジゼル』には狂乱のシーンがあり、その場面を集中的にリハーサルしました。リハーサルではありましたが、私にとってはかなり心が壊れてしまう経験だったためか、夜中、自分の泣き声で目が覚めてしまうほど役に入り込みました。公演が終わった後も数日間、亡霊のごとく過ごしていました。リハーサルでは(元英国ロイヤル・バレエのプリンシパルの)ロバート・テューズリーさんが指導にいらしてくださって、お芝居の間の大事さなどを教えてくださいました。役が自分の中に入り込んで支配するくらいにならないとだめなのだろうと思います。役として舞台の上で生きることが大切だということをテューズリーさんに教えていただいた作品でした。ついつい計算したり作りこんでしまったりしがちですが、演技というのは舞台の上、その場所で起きていることなのだと実感しました」

 「ガムザッティは高貴な姫なのであまりに強すぎてもいけないし難しい役でした。怖いだけの女性にならないように気を遣いました。いつも考えていることは、登場人物の行動には全て意味がある、つまり達成すべき目的があるといったことを絶対に忘れないようにしようということです。シーンごとに目的があります。たとえば、ここでは相手を説得するといった。そして登場人物にはそれぞれの人生の目的が常にあるはずなのでそれをつかみたいと思っています。それがドラマを生み出すと思うのですが、崩れないようにお芝居をするのはなかなか難しい。登場人物の精神状態に自分が同化できれば役に深みが出ると思うのですが、ガムザッティの性格や社会的立場と自分とのそれに共通点がなかったことも難しかった理由の一つだと思います。ガムザッティがニキヤに対して殺意を抱くシーンや『ジゼル』の狂乱のシーンもですが、自分は狂乱したことなんてないわけですし、人を殺そうと思ったこともないですから。そのようになかなか共感できない役は演じるのが難しいです」

客席と舞台との境界線がなくなる瞬間が好き

 

 木村は、観客に愛されるダンサーで、特に近年ファンが急増している。『くるみ割り人形』公演の時には終演後の握手会で彼女に一目会いたいというファンやちびっ子たちの長い列ができた。

 

 「客席と舞台との境界線がなくなる瞬間が私は好きです。踊り手の意識にお客様の思いが共振すると、踊っている側にもそれが伝わってくるのです。お客様から、終演後に「元気をもらった」とか「生きる希望を得られた」と言われるととても嬉しいですが、踊っている側もお客様の拍手を通して、そしてドラマティックな場面でお客さんが息をのんでいる時の、静まり返っている時のエネルギーやヴァイブレーションを受け取っているので、こちらも元気を頂いていると感じています」

 

 いよいよ来シーズンは、念願の『ロメオとジュリエット』のジュリエット役に挑戦する。踊りたいと思っていた役だ。

 

 「新国立劇場バレエ研修所の演劇の授業で、演劇研修所の研修生の皆さんたちとのコラボレーションで、合同でシェイクスピアの「ロメオとジュリエット」のバルコニーシーンを演じました。全員が台本を覚えて行ったのですが、バレエ研修生は台本通りの内容を動きで表現しました。このセリフだったら、(新国立劇場バレエ団で踊られている)マクミランの振付ではこういう風に踊るのだろうなと思ったり、逆にマクミランのこの振付なら、このセリフに該当すると想像しながら動いたりしました。将来自分がこの役を踊ることがあるとしたら、このシーンはこの台詞で踊りたいと思いながら。リハーサルは9月からですが、研修所でのこの経験を活かしてリハーサルに取り組みたいと思っています。そして作品を研究するために、新国立劇場の資料室の映像ライブラリーで過去の映像をたくさん観ています。マクミラン版だけでなくて、演出の違うロシア系の『ロミオとジュリエット』も観て勉強しています」

踊れないことが一番つらいから、健康第一に

 

 新国立劇場バレエ団は、日本のバレエ団の中では公演数が多く、特に最近は公演数が増えている。この6月にファースト・ソリストに昇格した木村は、主役だけでなくほぼ全日何らかの役で出演している。折れそうなほど華奢な身体の持ち主だが、健康維持の秘訣は。

 

 「体力を消耗している時でも動けるようにジャイロトニックのトレーニングを行っています。このトレーニングで、最低限の力で動くことができるようになるんです。また、呼吸もとても大事なので呼吸法の訓練もしています。精神的にタフになるためには、役を日常生活に引きずらないようにすることも必要です。舞台に立つ前に毎回私は緊張してしまう方なので!」

 「怪我をしたことがあるからですが、最近は、「踊れない」という状況が一番つらいことです。身体を動かすことができないのが私にとっては苦痛です。役を頂いて踊らせていただいていることは本当にありがたいことだと心から思っているので、あまり休みたいと思わないのです。睡眠と食事は特に大事だと思います。私の場合、体質的にも練習ばかりしているとどんどん痩せてしまいます。エネルギー消費に食べる量が追いついていかないのです。食事は一日三食、四食しっかり食べます。白米、そしてお餅などもしっかり食べて自分の身になるようにしています。お肉も食べますね。」

 「入団当初は目の前のことに一生懸命で忙しくて、踊れることのありがたみを感じていなかったかもしれません。その頃は休みたいな、とか疲れたな、と感じることもありましたが、怪我をして休むことを余儀なくされた時、こんなに自分は踊りたかったんだ、ということを実感しました。踊りで忙しくしていられることは本当にありがたいことだと、心から思いました」

​vol2.へ続きます

PHOTOGRAPHER: 沢渡朔

FASHION DIRECTOR: ふくしまアヤ at OTUA

COSTUME: 渡邊沙織 at 新国立劇場バレエ団

HAIR: KOTARO at Sense of Humour

MAKE UP: KOUTA at eight peace

ARTISTIC ADVISOR: 湯川麻美子 at 新国立劇場バレエ団

ART DIRECTOR: 石井勇一 at OTUA

INTERVIEWER: 森菜穂美

EDITOR: 井上ユミコ at Alexandre                          

SPECIAL THANKS TO: 櫻井眞夕美 at 新国立劇場バレエ団

木村優里(きむら ゆり)

千葉県出身。泉敬子、泉敦子、牧阿佐美に師事。15年新国立劇場バレエ研修所を修了し新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。『くるみ割り人形』で主役デビューを果たし、『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『ジゼル』といった作品で次々と主役を踊っている。17年舞踊批評家協会新人賞。19年ファースト・ソリストに昇格。

沢渡朔(さわたり はじめ)

1940年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中より写真雑誌等での作品発表を始め、日本デザインセンター勤務を経て、1966年よりフリーの写真家として活動、現在に至る。作品に、『NADIA』『少女アリス』『昭和』等。 

湯川麻美子(ゆかわ まみこ)

兵庫県出身。江川バレエスクールにて江川幸作、江川のぶ子に師事。アントワープ・バレエ学校、英国ロイヤル・バレエ学校、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア・バレエを経て、1997年に新国立劇場バレエ団に入団。プティ『こうもり』、石井潤『カルメン』、ビントレー『カルミナ・ブラーナ』『アラジン』、ウォルシュ『オルフェオとエウリディーチェ』で主役を踊ったほか、ビントレー『パゴダの王子』皇后エピーヌ役やドゥアト振付作品など現代作品で特に高い評価を得る。06年ニムラ舞踊賞受賞、11年プリンシパルに昇格、12年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。15年4月『こうもり』主演をもって引退。現在新国立劇場バレエ団バレエ教師などを務める。

<木村優里今後の出演予定>

 

新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」

出演 木村優里、渡邊峻郁、ほか新国立劇場バレエ団

日時 2019年7月28日(日)11:30、29日(月)15:00

会場 新国立劇場 オペラパレス

 

新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』

音楽 セルゲイ・プロコフィエフ

振付 ケネス・マクミラン

出演 木村優里、井澤駿、ほか新国立劇場バレエ団

日時 2019年10月20日(日)18:30、26日(土)13:00

会場 新国立劇場 オペラパレス

 

中村恩恵×新国立劇場バレエ団『ベートーヴェン・ソナタ』

振付 中村恩恵

出演 首藤康之、福岡雄大、木村優里、ほか新国立劇場バレエ団

日時 2019年11月30日(土)14:00、12月1日(日)14:00

会場 新国立劇場 中劇場

 

新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』

音楽 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

振付 ウエイン・イーグリング

出演 木村優里、渡邊峻郁、ほか新国立劇場バレエ団

日時 2019年12月21日(土)18:00、22日(日)18:00

会場 新国立劇場 オペラパレス

 

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』

音楽 レオン・ミンクス

振付 マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴルスキー

出演 木村優里、渡邊峻郁、ほか新国立劇場バレエ団

日時 2020年5月3日(日・祝)14:00

会場 新国立劇場 オペラパレス

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