top of page

Issue 003 ジェームス・ペット &トラビス・クローセン=ナイト

​フルスロットルの挑戦

英国ロイヤル・バレエの常任振付家であり、テクノロジーや脳科学なども取り入れてダンスの世界に革命をもたらしたコンテンポラリー・ダンスの鬼才ウェイン・マクレガー。世界中のカンパニーから引っ張りだこなだけでなく、レイディオヘッドのミュージックビデオや『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』などの映画の振付も手掛け、オラファー・エリアソンなどのアーティストとコラボレーションを行い、ユニークな活動で注目されている。

そのマクレガーのカンパニーで6年間活躍した二人の若手ダンサー兼振付家、ジェームズ・ペットとトラビス・クローセン=ナイトが、英国で活躍する舞台美術家の塚本行子のプロジェクト、「ファビュラ・コレクティブ」に参加し、新作を引っ提げて来日公演を行う。ダンスの最先端を走るふたりを塚本と共に、Alexandreが独占取材した。

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

 ジェームズ・ペットとトラビス・クローセン=ナイトは、昨年12月に、ロンドンのダンスの聖地、サドラーズ・ウェルズ劇場にて公演を行って高い評価を得た。「ファビュラ・コレクティブ」はどのようにして生まれ、彼らが参加するようになったのだろうか。今年の1月には来日公演が決まったというスピード感には驚かされる。

塚本行子   「私たちは、ティム・ポデスタというオーストラリア人振付家の仕事で、オーストラリアで出会いました。彼の方から、私と一緒に公演を行いたいと持ち掛けてきたので、エドワード・オールビーの「動物園物語(Zoo Story)」を原作にした作品をダンスにすることを提案したのです。その時に、ジェームズとトラビスという素晴らしいダンサーがいると紹介してくれました。」

トラビス   「この『Zoo』という作品と共に、『Informal Between』をサドラーズ・ウェルズ劇場で昨年の12月に初演した後、塚本さんが僕たちに連絡してきて、今後も一緒にこのコラボレーションを行いたいと言ってきました。今年の1月から3人で話し合い、僕たちは振付家として活動していき、プロジェクトにかかわっていきたいと話しました。カンパニー・ウェイン・マクレガーで6年間仕事をしてきて、それぞれがアーティストとして自分を確立させつつあり、新作を作っていきたいと思っていたのです。塚本さんがプロデュースを行いたいと思っており、特に新作を送り出していきたいということもわかっていました。僕たちは日本の文化にもとても興味を持っていて、特に日本の伝統や芸術、宗教に高い関心を持っていてその豊かさに魅かれていたので、日本で公演を行おう、ということになりました。これがファビュラ・コレクティブの最初の公演となります。」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

ジェームズ   「西洋文化と東洋文化の間の橋渡しをすることは、ずっと興味を持っていきました。」

トラビス   「塚本さんと話していて、日本で公演をやってみることはとてもいい考えだと思ったのです。東洋といっても国によって大きな違いがあり、日本のダンサーやアーティストたちにも会ってみたいと思いました。来日公演をすることを決めるまで、1か月しかかからなかったのです。自分たちの今の環境を抜け出て、自分たちの道を歩いていくことは正しい選択だと思いました。今日、ヨーロッパ、とくに英国では多くの若いアーティストたちは名を上げ、また支援を得るのに苦労しています。ダンス界では大御所がいるので、若いアーティストを育てるリスクを取るプロデューサーは少なくなっています。同じ情熱を共有できる人たちと仕事をするために、変化を得るために、やってみようと思いました。」

ジェームズ   「12月のサドラーズ・ウェルズ劇場での公演が終わった後で、この選択は正しいと実感したのです。僕たちの間には素晴らしい前向きなエネルギーが流れており、フルスロットルで進んでいきました。」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

ジェームズは体操世界選手権に英国代表として出場した元体操選手という異色の経歴の持ち主、そしてトラビスは男性の白鳥たちが舞うマシュー・ボーンの人気作品『白鳥の湖』に参加していたという異色の経歴の持ち主である。二人はどのようにダンスと出会ったのだろうか。

ジェームズ  「ダンスを始める前には体操選手でした。一般的な、小さい年齢からクラシック・バレエを始めるというステロタイプではなかったのです。アスリートとして育ち、初めてバレエのクラスを受けたのは17歳の時と遅かった。でも身体条件には恵まれていて体操選手としての訓練も受けていたので、身体でダンスの語彙を覚えられるようになればよかったのです。体操選手である間も、最終学年で週に一回、週末にダンスのクラスを受けて楽しかったし、教師はあなたには才能があるからロンドンに行ってオーディションを受けるべきだと背中を押されました。一生懸命練習しました。母は大学に行くべきだと言ったのですが、ロンドンのトリニティ・ラバンに入学して3年間学び、卒業してすぐにダンサーの仕事が見つかりました。」

トラビス   「僕が10歳の頃、1歳年上の姉が趣味でバレエを習っていて舞台に立つのを見て興味を持ちました。とても活発な子供だったので両親は僕にスポーツをやらせたがり、サッカーを習わせましたが、ゴールのそばで僕は踊っていたのです。そして11歳の頃バレエを習い始めました。最初は放課後の趣味だったのですが、だんだん面白くなってきてクラスを増やしました。先生にも勧められ、そして両親もオーディションを受けたら、というので、ロイヤル・バレエ・スクールで週末にクラスを受けるようになり、とても楽しかったのです。その後ロイヤルはやめて、13歳で、トリングという郊外にある芸術学校に入学し、19歳で卒業するまでそこに通いました。でも、途中でやめたいと思いました。最初はバレエから始めたのですが、コンテンポラリーも経験して、もっとコンテンポラリーをやりたいと思いました。僕は他の男の子と違っていて身体がとても柔らかく、フェミニンなところがあり、コンテンポラリーを踊るのは簡単だったけど王子様を演じるバレエは難しかったのです。バレエは決まりごとが多かったけど、コンテンポラリーはもっと自由で、振付も学び、感情的にもそれに助けられました。15歳になると壁にぶち当たりました。先生には普段ほめられているのに、テストを受けると最低点を付けられてしまうのです。両親と共に、どうして、と教師たちと話し合ったら、きみは将来成功できる才能があるから、わざと低い点数をつけているのだと言われました。最初は混乱したけど、以来もっと真剣に学ぶようなりました。一生懸命情熱をもってやりつつ楽しめばいい、と。心を入れ替えたことで卒業まで学校はとても楽しくなりました。卒業後、マシュー・ボーンのニューアドベンチャーズに入団しました。」
「マシュー・ボーンの『白鳥の湖』の公演で日本でも踊りました。今度は自分の作品を持って日本で公演できることをとても嬉しく思います。なぜだかわからないのですが、小さなころから日本が大好きだったのです。日本人の創造性、そして神道について学ぶことが大好きで魅せられてきました。」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine
James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

 この二人は、カンパニー・ウェイン・マクレガーで2013年に出会った。

ジェームズ   「僕たちは同時期にカンパニー・ウェイン・マクレガーに入団しました。僕がトラビスの半年後に入団したのです。お互い同じようにアーティストとして成長することに強い意欲を持っていて、すぐに親しくなりました。僕たちはとても熱心に稽古して、同じ情熱を分かち合い、友情を深めたのです。」

トラビス   「ほぼ同年代で、興味も共通していました。新しいカンパニーでしたが、マクレガーのアーティストたちは年上の人が多かったのです。二人とも、カンパニーでの最初に参加した新作は『Atomos』でした。この作品で初めて海外ツアーに出かけ、一緒に街をさまよいました。一人で知らない街に出かけて行くのは怖かったのです。このカンパニーはロンドンで年3回公演をする以外は、国際的にツアーを行っています。」


ジェームズ   「マクレガーのカンパニーには6年間いました。素晴らしい経験をさせてもらいました。ウェインはとてもクリエイティブで、たくさんの霊感を与えてくれたのです。そして一人一人の個性を尊重してくれました。多くのダンスカンパニーではダンサーを型にはめてしまいますが、彼はダンサーたちのそれぞれの動きの個性を発揮させることを勧めていました。ヒエラルキーのシステムはなくて、すべてのダンサーをソリストとして扱っていました。」

トラビス   「マクレガー・カンパニーにはダンサーは10人しかいなくて、多くの場合男女5人ずつでしたが、一人一人が全く違っていました。マクレガーのクリエイションでは、ユニゾンの動きがあったとしてもそれが完全に揃っているわけではなく、それぞれが別々のやり方で動くようにしていました。」

 

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

バレエを正式に学んだことがないマクレガーは、バレエの約束事を塗り替えた異色のアーティストだ。

ジェームズ   「マクレガーの振付家として素晴らしいことは、振付家としてコラボレーションに対してオープンで、様々なアーティストと組むことに集中していることです。僕たちも単に舞台上で踊っているのではなく、ファッション、ミュージックビデオ、映画などの活動もしました。ガレス・プーグのニューヨークでのファッションショーにも出演しました」

トラビス   「ジェームズは、ウェインの映画の仕事でのムーブメントのリサーチも行っていました。『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、『ターザン』、『ファンタスティック・ビースト』などです。カンパニーの仕事だけでなく、外部の仕事でもマクレガーと一緒に活動しました」

ジェームズ   「マクレガーには多大な影響を受けました。例えば身体の動きをとっても、本能とは別に2番目の本能が現れて別の動きができるようになります。彼は数学や化学も駆使して、もともとの本能とは別の動きに挑戦しているのです」

トラビス   「マクレガーは精神と肉体とテクノロジーの関係に強い関心を持っています。また、人間を機械として、機械を人間として考えることにも魅せられています。人間と機械の関係は現代においてはとても不思議なものとなっています。彼は人間にも機械としての本能があると考えています。僕も若い時に解剖学が大好きでしたが、マクレガーのカンパニーに入団したら、動きがとても解剖学的で、極端な動きが多いけど人間の身体の可能性の限界に挑戦するものでした。最初の数週間は背中が痛かった(笑)。バレエ・クラスを多く受けつつも、コンテンポラリーの高度なクラスもあり、彼の作品には作品ごとに独特のテクニックが必要です。彼の作品と、毎回異なった動きもあることで、独特のムーブメントができるようなりました」

ジェームズ   「マクレガーの作品の中でも、『Tree of Codes』はお気に入りでした。コールドプレイも出演した2015年のマンチェスター国際フェスティバルのヘッドライナーでした。マクレガーのダンサーの他、パリ・オペラ座バレエから6人のダンサーが参加しました。音楽はジェイミーXX、美術はオラファー・エリアソンというコラボレーションで、サドラーズ・ウェルズ劇場、ニューヨーク、そしてパリのオペラ・ガルニエでも上演しました」

トラビス   「『Tree of Codes』は今度パリ・オペラ座のオペラ・バスティーユでも上演され、ゲストアーティストとして再び踊ることになっています。マクレガーのカンパニーで最後に踊った『Autobiography』は、スクリーンに投射された2D、3Dのイメージが形を変え、11人目のダンサーとして同じように動くというテクノロジーを使ったものでした」

ジェームズ   「2,3年前から、カンパニー外でもコラボレーションを行うようになりました。カンパニーが終わった後、実験的なことを二人でやり始めました。最初に外で作った作品は、ロイヤル・バレエの『ドラフト・ワークス』という若手振付家のためのプラットフォームで、ウェインはロイヤル・バレエの常任振付家なので、僕たちに作品を創ってみないかと提案してくれたのです。ここでデュエットを作りました。彼は、僕たちがカンパニーから出ようと思っていると意識していて、辞めることも許してくれ、そしてその後も応援してくれています」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

彼らにインスピレーションをもたらしているのは、人間の存在とそのつながりである。

ジェームズ   「一言でいえば「人生」です。今回の『Elevation~昇華~』は人間の関係性についての公演です。『Informal Between』は共同振付作品で、分かち合っているものです。感情を捉えることに強い関心があり、この感情の波が観客に伝わり、エネルギーも伝えられればと思います」

トラビス   「人間、です。今日の振付は極端なものが多くて、舞台上でもパワフルなものが多くなっています。素晴らしいものも多いのですが、芸術性、そしてつながりを感じさせるものは少ない。人間を人間としているものは何か、行動をしたり、物事を見たり、感じたり、人との関係性、かけがえのない時間、それについて考えて行きたいと思っています」
「50年、60年経った後で、死ぬ前に、自分の生み出した作品を見てみて振り返り、これらの作品を集めればそこから一人の人間が作られる、ということができればと思っています。人間の目に見えるところ、反映するところ、感情的なところといったレイヤーがインスピレーションとなって、観客の感情を動かすことができるようになりたい。お客さんが観たものに自分を結びつけることができるような。本を読んでいて、その本の登場人物に自分を反映できるような感じで」
「観客と個人的に結び付き、その人の人生を変えることができるような作品を創りたい。ダンスや芸術には、人の人生を考える力があるからです。ダンスを観ることで、どうやって生きるべきか、どんな意欲を持つべきか、人間性とは何かを考えるきっかけになり、人生と響き合うような作品を生み出したいです。深みがあって、人々の心につながったり感情を動かしたりする作品を創るのは、振付家にとっては挑戦です。」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

まだ始まったばかりのこのプラットフォーム、これからどのような進化をしていくのだろうか。若い二人だが、すでに伝説的なバレリーナのアレッサンドラ・フェリ、パリ・オペラ座エトワールのマリ=アニエス・ジロなどのトップアーティストとの共演も果たしている。

塚本   「今後の作品についても様々なアイディアがあります。ロンドンまで駆けつけてサドラーズ・ウェルズ劇場での『Zoo』を観て二人のダンサーに魅せられた、ヨーロッパで主役を歌っている日本人ソプラノ歌手がコラボレーションをしたいと思っています。オペラの歌とダンスの作品のバランスは難しいのですが、以前私が仕事をしたことがある振付家、演出家のウィル・タケットが興味を持ってくれたので作品の提案をしています。」

トラビス   「プロジェクトだけでなく、パートナーシップも構築していて、日本でも何かできればと思っています。イタリアやスコットランドでレジデンシャル・アーティストしての活動を始めようとしているところです。」

ジェームズ   「昨年、ウェインがBBC2のためのプロジェクトを行っていて、ナショナル・ポートレート・ギャラリーの中でアレッサンドラ・フェリと踊り、収録されてBBCで放映されました。振付は、ウェインが今育てているシャーロット・エドモンズという若手振付家で、フェリとのデュエットです。アレッサンドラはものすごく表現力があって、しかも仕事がしやすい人でした。大スターなので僕は緊張していましたが、とても優しい人でした。上手くいっていないことがあればそれをきちんと指摘してくれたので、彼女と踊ることは大変ではなかったのです。僕のキャリアの頂点と言ってもいいかもしれません! また、『Tree of Codes』では、パリ・オペラ座のエトワール、マリ=アニエス・ジロと踊りました。マクレガーは、僕たち二人とのトリオ、そしてデュオも創ってくれたのです。」

トラビス   「『Tree of Codes』ではオラファー・エリアソンとも話し合いました。マリ=アニエスと一緒に踊ったのはとても楽しくて、将来また一緒に仕事をしたいねと話しています。彼女は演劇などもしているのでとても忙しいですが、いつかきっと。」

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

 今回上演される3つの作品、デュエットの『Informal Between』、カフカの小説に基づくジェームズのソロ『掟の門』、そして日本の神道に新スピレーションを得た『塩と水』についても二人は熱く語ってくれた。セルリアンタワー能楽堂という能舞台で上演されることも、ユニークな試みである。

ジェームズ   「『Informal Between』は、『Zoo』が45分の作品だったのでこれだけでは公演にならないので、塚本さんがもう1作品必要なので作品を創ってほしいと依頼されました。創作の時にはまだマクレガーのカンパニーにいたので大変でした。夕方5時か6時までカンパニーで働いていたので、その後夜9時くらいまで作品を創っていて一生懸命やりました。とても疲れましたが、頑張った甲斐がありました。ある時、金曜日の夜遅く、塚本さんがスタジオにやってきて、他に誰もいなかったのですが、見学していたのです。彼女は作品を観て涙していました。これがきっかけで、彼女がこの作品を気に入り、一緒に仕事をしたい、とファビュラ・コレクティブが始まったのです。この作品を再演し、日本に持っていくことができて嬉しい。
『Informal Between』は、二人の人間の関係について描いている作品で、私たち自身の関係にも影響を受けた作品です。マクレガーのところで一緒に何年も仕事をして来た経験から。ダンサーというのは、深くつながり、身体性を共有するもので、言葉では表現できないものです。一緒になる感覚です。ムーブメントを感じていて、耳をそばだてている感じで、こうやって『Informal Between』が作品として成長してきました。」

トラビス   「この作品を創っている時には、特に人間との関係に強い関心がありました。自分たちの関係性は、大きな知識の宝庫として活用できました。振付家やアーティストは物事を発見していきますが、自分たちが知っていることを作品にすることができたのです。一瞬の出来事が、知らず知らずのうちに一生分の経験のように感じられるような感覚を伝えたいと思いました。」

ジェームズ   「一緒に緊密に仕事をし、リサーチを行い、それぞれの人生と人間性について探検して、つながって、観客がそれを感じてくれたらいいなと思います。人々が自分たちのことだと思えるような作品にしたいと。」


 

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

ジェームズ   「一緒に仕事をしていて、時にはぶつかることもあり、それはこの作品の中にも現れます。人間関係について描いている作品で、人間なので当然、うまくいかないこともあります。この作品のオープニングでは照明を使って工夫をしていますし、衣装もユニークなものです。そのあたりは見てのお楽しみですね。」

トラビス   「照明、衣装、音楽とそれぞれの要素にメッセージがります。衣装にはたくさんのヒントがあります。人間関係、記憶。照明は単に美しく見せるのではなくて意味があります。音楽も独特の響き合う環境を作り上げ、また無音のところもあります。今回は能舞台で行うので、舞台のサイズなども違っていますし、伝統的な要素についても考えています。この舞台で行うことは素敵な経験となりますね。」

ジェームズ   「『掟の門』は塚本さんに委嘱された作品です。「このカフカの本を読んで、あなたにピッタリの作品だと思った」と言われ読みました。非常に短く、そして隠喩の多い作品であり、そしてこの作品の考えはとても興味深かったです。この作品に基づき8分間のソロを作りました。一人の人間の中の葛藤を見せる生々しいもので、自分の中の戦いについて表現した、まさに僕自身の内面を見せるものです。この作品のなかで主人公は年を取るのでそこを見せたいと思うし、悲しい終わり方をしますが、同時に僕の身体性についても極限にまで追求しています。」

トラビス   「『塩と水』は、日本で見せる作品をどうしようとみんなで考えていた時、塚本さんが衣装の色について、グレーはどうでしょう、と提案してきました。数日の間、日本に関連したことを調査していました。世の中に罪と罪悪感、堕落と悪がどうやってもたらされたかということについても考え、そして罪を清めるために塩と水を使うという考えに心を動かされました。汚れた塩の柱を、水に浸した手で拭くときれいな白が現れるというものです。身体から罪を取り除くことに通じる儀式のようなものだと感じられました。神道における神と人間の考え方にも影響されました。違ったムーブメントを探し求めたいと思い、ここでは、棒のようなものが登場し、これとデュエットを踊るような動きがあります。この棒にも振付がありますが、上手く反応してくれない存在であり、思うようにコントロールするのは難しいので、気を付けて振付けました。」

 

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

ふたりはモデルとしても様々なブランドとコラボレーションして活躍し、ファッションにも多大な関心を持っている。

ジェームズ   「今回は、塚本さんと衣装については細かく仕事をして、どのような色や形にするかについてははっきりとしたイメージがありました。衣装がどのように変化し、そして流れるような動きをするかについてもよく考えました。最近では、ウェインと、フィレンツェで大きなプロジェクトに関わりました。Cosというブランドの新しいラインについてプレゼンテーションを行いましたが、単にランウェイを歩くのではなくて、この服を着てダンスを踊るのです。ファッションをまとってムーブメントを作ることにとても興味があり、将来やってみたいと思っています。ファッションの潮流として、着て歩くだけではなく、もっとユニークで、服を違った形で見られるような動きを付けて行くということが広がっていくと思います。」

トラビス   「服はアイデンティティで、自分をどのように見せたいかを表すものです。着る服によって、人はどんなものにもなることができます。ファッションはどんどんオープンになっていて、カルチャーにも影響され、ジェンダーの垣根も取り払われてきて男性もドレスを着るようになってきています。アジア、そして日本のアヴァンギャルドなファッションにとても興味があり、今回の来日でも、日本のデザイナーについてもっと知りたいと思うし、ロリータ・ファッションも見てみたいです。」


 

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

 彼らは、世界中で若い才能を育てようと教師やメンタ―としての活動も行っている。

ジェームズ   「英国ではアウトリーチ活動をやっています。テクノロジーが進化し、あわただしい生活の中で、若い人々にとってクリエイティブであることはとても大切です。僕はダンスによって多くのものを与えられた。とてもシャイだったけど踊ると自由になれて自信が持てるようになりました。ダンスにアクセスする場所を提供し、そして若い人たちに新しいものを発見する場所を与えることができれば魔法が起きると思います。」

トラビス   「僕は学校時代に苦労して、ダンスの世界も厳しかった。一生懸命やってもなかなかチャンスはやってこないので、手を差し伸べてくれる人がいるという感覚はとても大切だと思う。若い人たちを助けたいと思っています。そしてほかのアーティストと仕事をするのが大切だと思っています。世界は大きく、自分の弱みも知ったうえで、何ができるかを考えたい。」


 

James Pett & Travis Clausen-Knight ©︎Alexandre Magazine

 今回、英国外での活動第一弾として日本を選んだジェームズとトラビス。観客と心の触れ合いをしたいと思っている二人の想いを語ってもらった。

トラビス   「自分たち自身について新しい何かを、また人生において新しい創造性をこの公演を通して発見してくれればうれしいです。それはアーティストであるかどうかにかかわらず、新しいエキサイティングなものを見つけてほしい。何か新しいことへの一歩を踏み出すきっかけになることができたら。」

ジェームズ   「僕にとってダンスは表現する芸術で人生です。生の舞台を観に行くことも人生であり、一度きりのもの、ずっと壁にかかっている絵画とは違います。とてもユニークな経験になるはずですし、僕たちは皆さんの心に触れたいと思っています。」


ウェイン・マクレガー作品の、超絶的な動きから、しなやかで柔らかい踊り、そして深い内面性と繊細さを踊りからも漂わせるふたり。まだ20代と若く研ぎ澄まされた肉体を持つ二人の今後から目が離せない。ぜひ5月21日、セルリアンタワー能楽堂での公演を目撃してほしい。

 

EDITOR & PHOTOGRAPHER & VIDEOGRAPHER : Yumiko Inoue

INTERVIEWER & TRANSLATOR & WRITER :  Naomi Mori

COSTUME PROVIDED BY :  KA WA KEY

ジェームズ・ペット 振付家、ダンサー
James Pett, Choreographer and Dancer

ジェームズ・ペットは2007年のオーストリアでの世界体操選手権で英国を代表するなど、体操選手として10年間活躍した。トリニティ・ラバン・コンサヴァトワールで学び、2011年に卒業して学士号を取得した時には優秀賞を受賞。またパフォーマンスにおける傑出した成果により、マリオン・ノース賞を授与された。2011年から2013年まで、ジェームズはリチャード・オールストン・ダンス・カンパニーで踊った。ジェームズがリチャード・オールストンの『Unfinished Business』で踊ったデュエットは、2013年のニューヨーク・タイムズの批評家たちが選んだベスト10公演の一つに選ばれた。ジェームズは2013年より2019年までカンパニー・ウェイン・マクレガーに参加し、その間マクレガーの多くの作品を世界中で踊った。2018年にジェームズはオーストラリアの振付家ティム・ポデスタと元ロイヤル・バレエのプリンシパル、マーラ・ガレアッツィによって結成されたM&T In Motionに招かれた。ジェームズはW Model Managementに所属するモデルであり、故郷スコットランドのインヴァネスにあるエデン・コート・シアターのクリエイティブ・アンバサダーを務めている。イタリアやタイなどでダンスを教えたり振付を行ったりするなど、活動の領域を広げている。


 


トラビス・クローセン=ナイト 振付家、ダンサー
Travis Clausen-Knight, Choreographer and Dancer

南アフリカのケープタウン出身。英国に移り、トリング・パーク・スクール・フォー・エデュケーショナル・アーツを2009年に卒業。マシュー・ボーンのニューアドベンチャーズで『白鳥の湖』の世界ツアーに参加し、この作品を収録した3D映像にも出演している。2011年には、マイケル・クラークのテート・モダンでのレジデンシーに参加した。2013年からカンパニー・ウェイン・マクレガーに参加し、『Atomos (2013)』、『Tree of Codes (2015)』, 『Autobiography (2017),』の他、6年間で数多くの新作や単発のプロジェクトでマクレガーと活動してきた。さらにTavaziva Danceで『Double Take』の再演に参加し、『Sensual Africa』のクリエーションに携わった。また、A.D. Dance やCombination Danceでも活動している。トラビスはファッションの世界でもクリエイティブな仕事に取り組んでいる。チェルッティ1881やCosといったトップブランドのキャンペーンの他、Kawakey、Jamie Elwood、DEMO Fashionなどの新進ブランドのコレクションでもモデルとしてフィーチャーされた。振付への意欲と同時に、トラビスはインテンシブ・プログラムやワークショップを通じて次世代の芸術家へのメンタ―シップや指導を行い、ダンス、アイデンティティと創造性への精神的なアプローチによる自己育成法を提供するなど、指導者としての意欲的な活動も行っている。

公演情報

『Elevation―昇華―』 (世界初演*を含む/3部構成)

・作品1* 『掟の門』(振付・出演:ジェームズ・ペット)フランツ・カフカの小説「掟の門」より。

・作品2* 『塩と水』(振付・出演:トラビス・クローセン=ナイト)

・作品3  『Informal Between』(振付・出演:ジェームズ・ペット&トラビス・クローセン=ナイト)
(初演:2018年 サドラーズ・ウェルズ)

・上演時間 約60分(幕間休憩有)
・終演後、アフタートーク、Q&Aを実施(通訳有)

【日時】
2019年5月21日(火) 19時開演(1回公演・アフタートーク有)

【会場】
渋谷 セルリアンタワー能楽堂

【チケット料金】 全指定席・税込
正面 5,500円、脇正面 5,000円、中正面 4,500円/
25歳以下 3,000円(客席後方桟敷・自由席・枚数限定・入場時要証明書)

※受付開始は公演の1時間前、開場は開演の30分前※未就学児のご入場はできません。※25歳以下チケットをお求めのお客様は入場時に公的身分証をご提示ください。※開演時間を過ぎてのご入場は一部制限させていただく場合がございます。また主催者指定の座席へのご案内となる場合がございます。※やむを得ない事情により、出演者・演目等が変更となる場合がございます。

【チケット取扱】
Confetti(カンフェティ)
http://www.confetti-web.com/elevation
0120-240-540 通話料無料・オペレーター対応(受付時間 平日10:00~18:00)(携帯・PHSからのご利用の場合:03-6228-1630)

bottom of page